史上最年少で芥川賞を受賞した綿矢りさの同名小説(文藝賞受賞)を、TVドラマやバラエティー番組を演出してきた片岡K監督が上戸彩主演で映画化。脚本は大森美香。劇中でもうひとりの主人公となるおませな小学生を、『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』に声優として参加し、映画『踊る大捜査線 THEM MOVIE 2』『お父さんのバックドロップ』などに出演している神木隆之介が演じている。この子はなかなかよい。
平凡すぎるほど平凡な高校生活からある日突然ドロップアウトし、親にも内緒で不登校を決め込んだ野沢朝子。別に学校が嫌いなわけじゃない。イジメもなければ成績が悪いということでもない。ただ何となく、皆と同じ歩調で高校生活を送る自分に違和感を感じたのだ。朝子は粗大ゴミに出したコンピュータを譲った縁で、同じマンションに住む小生意気な小学生・青木かずよしと知り合う。動かなくなったコンピュータにOSをインストールし直し、あっという間にインターネットにも接続してしまうこの電脳少年から、朝子は奇妙なアルバイトを持ちかけられるのだ。それはアダルトサイトのチャットルームで、風俗嬢に成り代わって客の相手をするものだった……。
タイトルの『インストール』とは、動かなくなったパソコンに新しいOSをインストールする行為と、人生の途中で立ち止まっている朝子とかずよしが奇妙なアルバイト経験を経て新しい未来に歩き出していく姿を重ね合わせてのものだろうか。物語としての新しさは、それが女子高生と小学生の少年のペアで成立していることと、このペアがコンピュータというツールによってまったく対等、もしくは小学生の方が高校生より優位に立つ状況が生まれていることだろう。物語に登場する実際の人間関係はほぼこのふたりの中で完結し、親や教師といった周囲の人間はごく軽くしか扱われていない。チャットに登場する男たちも、演じている俳優は豪華だが個々のキャラクターとしては印象希薄だ。むしろそこでは、何も描かれていないと言っていい。チャットの文字の向こうにいる人間は記号に過ぎないのだ。そしてパソコンを使用する場所はかずよしの部屋の小さな押入の中。上戸彩が主演なのでメジャー感のある映画にはなっているが、物語としてはきわめて小さい。
正直これっぽっちの話で1時間半の映画にするのは苦しい。スカスカなドラマを埋めるために、映画をぎっしりとヒロインのモノローグで埋めつくしたり、時計台や風俗店のプレイルームなどのイメージショットを挿入して全体をふくらませてはいるが、コンパスの一方の足は動いていないのだから、全体がぐるぐる同じところで回っているばかり。ドラマに発展性がまるでないのだ。小さな物語に過剰な装飾を施した結果、この映画はゴテゴテと飾りばかりが大きい不格好な映画になっている。脚本段階でもっと大きなドラマを作ってほしかった。
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