女子大生ジウォンは原因不明の記憶障害で、高校時代以前の記憶を失っていた。障害のせいで周囲から孤立しがちな彼女をにとって、唯一の友人と言えるのは兵役帰りで年上の男子学生ジュノ。だがジウォンは彼とも離れて、海外に留学することを考えていた。そんな彼女のもとに、高校時代の友人だったウンソとユジョンが不振な死を遂げたという知らせが届く。彼女たちは死の直前、何かにひどく脅えた様子だったという。やがてジウォン自身も、不気味な夢や幻覚に悩まされ始めるのだが……。
『彼女を信じないでください』のキム・ハヌル主演のホラー映画。監督・脚本はこれがデビュー作のキム・テギョンだが、これがなかなかよくできた面白い映画になっている。突然大きな音を出すなどショッカー演出に頼っている面もあるが、映画終盤の謎解きにぐいぐい引き込まれ、最後のどんでん返しには驚かされた。単なるホラーではなく、ミステリー仕掛けになっているのがいい。記憶を失った女性が事件に巻き込まれ、その謎を解明する過程で自分自身の過去に隠された秘密を知るという物語だ。『リング』も『呪怨』もホラーとミステリーの融合だったが、本作の「謎」は主人公の心の中にあるのだ。できれば目を背け、封印しておきたい自分自身の過去。それがあからさまになるとき、ひとつの恐怖は去って、まったく別の新しい恐怖が始まる。
ヒロインは記憶を失って以降、性格がまるで変わってしまったという設定。しかも「過去の自分」は、ひどく嫌な性格なのだ。自分の身に起きている異変の正体を探るには、どうしても自分自身の過去と向かい合わなければならない。しかしその過去は、到底正視することのできない事実をはらんでいる。できればそれを見たくない。しかし見なくてはならない……。そのジレンマがこの映画の中盤から終盤までの大きな関門になる。あらゆる謎も、あらゆる障害も葛藤も、すべて主人公の中から発しているというのがこの映画の面白さだろう。しかもそれがヒロインの勝手な一人相撲にならない工夫が、映画の最後のどんでん返しとして用意されているのには感心させられる。
この手のどんでん返しを見て「オチに途中で気がついた」などと得意気に言う人がいるが、よくできたどんでん返しは物語の必然的な帰結として用意されているものだから、察しのいい人は当然それに気がつくのだ。誰も気がつかないどんでん返しというのは、要するに何の必然性も説得力もない、思いつきだけの意外な結末に過ぎない。もちろん世の中の事件というのは気まぐれなものだから、何の必然性もなくある日突然意外な出来事が起きたりするものだ。しかし映画にそれは許されない。どんでん返しは、そうなるべくして映画の中に隠されているものだ。この映画はその原則を、きちんと守っている。だから映画の最後で作り手の企みを知らされたとき、観客は驚きつつニヤリと笑えるのだ。
(英題:The Ghost)