しげの秀一の人気コミック『頭文字(イニシャル)D』を、香港のスタッフとキャストで映画化した青春カーアクション映画。日本の原作を香港を舞台に翻案するのではなく、そのまま日本を舞台にした日本人の話として映画化しているのがユニーク。日本では日本語吹き替え版が劇場公開されるが※、もちろんオリジナルは広東語バージョンだ。(広東語バージョンはDVD発売を待て!)これはハリウッド映画が、世界中のどこに行ってもハリウッドの映画スタッフとキャストで英語の映画を作ってしまうのと同じだ。大ヒット作『インファナル・アフェア』シリーズを手がけたスタッフ&キャストが、大真面目に日本の高校生の夏休みを映画にしているのはスゴイ。
監督のアンドリュー・ラウとアラン・マック、脚本のフェリックス・チョン、主人公のライバルを演じるエディソン・チャン、ショーン・ユー、父親役のアンソニー・ウォン、友人役のチャップマン・トウなどは、すべて『インファナル・アフェア』からの横滑り組。主演のジェイ・チョウは台湾芸能界の長者番付No.1という大スター。ガールフレンド役にはこの映画の主要キャストで唯一の日本人・鈴木杏。主人公の前に立ちふさがるラスボス的なレーサーを映じるのは、ジョーダン・チャン(陳小春)。
『頭文字(イニシャル)D』は2001年に劇場用のアニメ映画が作られていて、僕はそれも面白く観た。しかし今回の映画はすべて実写だ。チューンナップした車同士が峠道で過激なバトルをする様子が、本物の車を使って本当に撮影されているのは驚異的。路面を滑るようにドリフトさせながら、まるで坂道を落っこちるように走り去っていく主人公の車。これはコミックやアニメではおそらく体験できない、強烈なビジュアル・インパクトがあるはずだ。カーブに数台の車が同時に突っ込んでいき、紙一重の間隔を保ってカーブを曲がっていくのも驚き。こんなシーン、いったいどうやって撮影したんだか……。
家業である豆腐屋の配達で峠道を走っているうち、驚異的なドライビングテクニックを身に付けてしまった藤原拓海。いつしか「秋名の神」の伝説を生み出した拓海と戦おうと、あちこちから凄腕のドライバーたちが集まってくる。拓海自身はさしてレースに興味もなく、幼馴染みの茂木なつきとデートすることで頭が一杯。だが自信タップリのレーサーたちの挑発に、かつて秋名最速の男だった父から受け継いだ走り屋の血が騒ぐのだった。
物語は主人公の拓海が公道レースの世界にのめり込んでいくエピソードと、幼馴染みなつきとの甘くほろ苦い恋愛エピソードの二頭立て。なつきのエピソードには原作のファンあたりから賛否両論がありそうだけれど、独立した1本の映画としてはこれも有りだと思う。いつも退屈そうでふて腐れた顔をしている拓海の心の内を、外側から揺さぶって観客に提示するのは上手い方法だと思う。
(原題:Initial D)
※日本の劇場でも日本語吹き替え版の他、広東語バージョンが公開されたそうです。