子供向けのミスコン「リトル・ミス・サンシャイン・コンテスト」への出場が決まった少女オリーヴと、彼女と共にミスコン会場へ向かう家族たちの珍道中を描くホームドラマ。家族それぞれが、ひと癖もふた癖もあるユニークな人物たち。個々のエピソードの面白さももちろんだが、こうした映画の場合はエピソードと結びついたキャラクターの魅力がそのまま映画の魅力になることを痛感させられる。この映画で家族が移動を始めるきっかけを作ったのはオリーヴなのだが、彼女が主人公というわけではない。この映画の狂言回しになるのは、自殺未遂事件を起こした元大学教授のフランクという中年男。彼は一家の親戚の男という設定だ。半ば親族で半ば他人という微妙なポジション。それがこの男を一家のドタバタ騒ぎの冷静な観察者にすると同時に、一家の生み出す強力な磁場の中で自らも当事者になるというオイシイ立場を与えることになった。演じているのは『40歳の童貞男』のスティーヴ・カレル。
見ず知らずの環境を映画の観客に解説するため、部外者や初心者をひとり中に紛れ込ませるという手法はよく使われている。この映画のフランクは、まさにそういう定番のポジションに立っている。見ず知らずの環境とは、つまり映画に登場する「フーヴァー家」だ。だが部外者がひとりいるだけで、話が面白くなるわけではない。そこにはドラマが必要だ。その点この映画はロードムービーだ。一家全員がおんぼろのマイクロバスに乗り込んで旅をする。それだけでもいろいろなドラマが生じてくる。そして一家の人間関係に思い切り波風を立てるのが、アラン・アーキン演じる一家のお祖父ちゃん。ワガママな性格が災いして老人ホームを追い出され、目下のところヘロインに夢中という不良老人だ。思春期の孫に「若い女を抱け! わしがやったら犯罪だが、お前は今のうちになるべくたくさんセックスしろ!」と説教するのだから恐れ入る。しかしここまでくると、ズレているとか何とか言うレベルを超えて、もはや存在自体が痛快。このジイさんは途中で退場してしまうのだが、それでも最後の最後にとんでもないことをしてくれるのには参った。なおアラン・アーキンは、この祖父役でアカデミー賞の助演男優賞を受賞。これはこの映画の出演者全員を代表して受け取った、ご褒美みたいなものかもね。
映画の中には感動的なシーンが幾つかあるのだが、僕は長男ドウェーンが無言の行を破る場面は身につまされた。若者の夢が無惨にも砕け散るシーンを、こんな形で描いた映画がこれまでにあっただろうか。そして最後の「リトル・ミス・サンシャイン・コンテスト」! 少女の夢の実現を、これほど哀しく描いた映画これまでにあっただろうか。しかしこれが、じつに楽しいのだ。観ていて涙ぐみながらも、ついニヤニヤ笑わずにいられない場面になっているのだ。小さな映画だが、キラリと光る作品だ。
(原題:Little Miss Sunshine)