サイレント映画の喜劇王、チャールズ・チャップリンの伝記ドキュメンタリー。今年は彼の没後30年にあたり、12月に新宿ガーデンシネマで「WITH CHAPLIN/チャップリンと」と銘打った特集上映が開かれる。短篇『犬の生活』や『担え銃』『のらくら』から、初長編の『キッド』、監督専業で挑んだ『巴里の女性』、『黄金狂時代』から『ライムライト』までの代表的長編映画などがスクリーンで観られるチャンスなのだが、そんなチャップリン監督作に混じって本邦初上映の目玉作品として上映されるのが、このドキュメンタリー映画なのだ。
監督は映画評論家のリチャード・シッケル。映画史研究家として数々の映画人の伝記を執筆し、70年代からはドキュメンタリー映画の分野にも進出し、この映画は彼がアメリカの映画監督を取り上げたドキュメンタリー・シリーズの18作目にあたるという。もともとはチャップリン作品のDVD-BOXに特典ディスクとして添付されていたもののようだが、完成度が高いので大画面で観る価値は十分にある。特に映画作品の引用は迫力がまるで違う。インタビューに答えているのも、ハリウッド内外の大物監督やチャップリンの関係者たちなど豪華な顔ぶれだ。
コメディ映画の第一人者ウディ・アレン、映画の中でチャップリンのギャグを再現したことがあるというジョニー・デップ、往年のハリウッド映画を敬愛するマーティン・スコセッシ、伝記映画『チャーリー』を監督したリチャード・アッテンボロー、『チャーリー』に主演したロバート・ダウニー・Jr.、チャップリンの子供たち、ジェラルディン、マイケル、シドニー、『ライムライト』でチャップリンと共演したクレア・ブルーム、映画監督のミロス・フォアマン、そしてナレーションはシドニー・ポラックが担当している。
チャップリンの女性遍歴など、彼の人生の暗い部分にもスポットを当てているのは公平だが、これはまあファンならみんな知っていることばかり。それよりこの映画で面白かったのは、チャップリンと父親の関係を、『ライムライト』を通じて解説するところだ。寄席芸人だったチャップリンの父親こそが、名作『ライムライト』でチャップリンが演じたカルベロのモデルだった。若い頃から寄席の売れっ子だったチャップリン自身は、終生「客に見放されるのではないか?」という恐怖と戦っており、『ライムライト』にはそれが正直に告白されているという。チャップリンは故郷であるロンドン下町の風景を忘れることがなく、映画に登場する街並みのセットはロンドンがモデルになっているという話も面白い。
映画界から事実上引退してしまったチャップリンが、家族の撮るホームムービーの中で往年のギャグを再現しているのも貴重な映像。チャップリンを英雄としてではなく、弱い部分も持ち合わせたひとりの人間として描いた好ドキュメントだ。
(原題:Charlie: The Life and Art of Charles Chaplin)