カンフー修行の仕上げとして、日本で最強の敵と戦うことを命じられた天才カンフー少年が、ゲーム会社を隠れ蓑に学校教育を通じて世界征服を企む秘密組織・黒文部省と戦うアクション・コメディ映画。話のアイデアはそう悪くないと思うし、キャスティングもかなり豪華。しかし脚本は物語の組み立てがきわめて雑で荒っぽく、とても劇場長編映画として後見物のお客さまに披露できるレベルには達していない。この映画を観たのは4月1日の映画の日。春休み中ということもあって客席には子供連れの客が多かったが、この観客が映画の最中にクスとも笑わないのは印象的だった。
結局何に失敗しているかというと、この映画はコンセプトが不明確なのだ。これはアクション・コメディなのか? だったらアクションを十分に見せるため、主人公カンフーくんと戦う相手にもそれなりのアクションができる俳優を用意するなり、それなりのアクションをしているよう観客に見せる工夫をすべきだった。あるいはこれは、パロディ映画なのか? だったらそれをもっと徹底させなきゃダメ。例えば泉ピン子の働くラーメン屋が幸楽だというなら、幸楽のシーンになるたびに「渡る世間は鬼ばかり」のテーマ曲を流すぐらいのことはしなきゃ。
僕はこの映画を観ても、作り手が観客をなめているとしか思えない。主演のカンフー少年チャン・チュワン君が、本格的に中国武術を学んでいるらしい様子は画面からも伝わってくる。しかしそれが、長年修行をしたカンフーの達人たちを軒並み倒していくほどの実力に見えるかというと、それは必ずしもそうじゃない。僕は映画導入部の少林寺の場面で、もう何となく白けてきてしまった。一応これは『燃えよドラゴン』の導入部を下敷きにしているんでしょうけど、観ていてもまったくワクワクしない凡庸なものになっている。チャンくんが本格的な中国武術の腕前を披露するとすればこのオープニング部分しかないのに、この映画はそこを軽く流してしまうのだ。
作り手の観客をなめた態度は、登場人物のネーミングに象徴的に現れている。主人公の男の子の本名が「カンフーくん」で、日本でヒロインの女の子に付けられたニックネームも「カンフーくん」。泉ピン子の役名は「泉ちゃん」。中国の師匠の名前は「ピン・コー師匠」。子供たちの名前が、イケメンくん、ボスバーガー、モミアゲくん。なんじゃこりゃ? これじゃ昭和40年代の子供向けアニメか、ハム太郎レベルのネーミングセンスではないか。
子供だましの映画ならそれでもいい。でも子供を騙すにも、それなりの準備や段取りというものがあるだろう。それをさぼっていては、子供だって騙せない。こんな映画は作るだけ無駄だし、観るだけ無駄。久しぶりに箸にも棒にもかからない映画を観たが、こうした映画の企画が通り、劇場で公開されるということは、日本映画にもまだまだ余裕があるということなのだろうか。
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