往年のイタリア映画界の巨匠フェデリコ・フェリーニが1963年に製作した代表作のひとつ『8 1/2』を、1982年にブロードウェイでミュージカル化した「NINE」。タイトルが「2分の1」だけ増えて「9」になったのは、歌と踊りの要素が増えたからだとか。それなら今回の映画は、映画的な映像テクニックをふんだんに取り込んだことで、いっそ『9 1/2』にでもすればよかったと思うが、それじゃミッキー・ローク主演の別の映画になっちまう……。
ミュージカルではない映画がブロードウェイでミュージカル化され、それが映画化されるという例はこれが初めてではない。同じフェリーニ作品なら、『カビリアの夜』('57)がブロードウェイで「スイート・チャリティ」('66)という映画になり、後に映画化された事例がある。最近の映画なら『プロデューサーズ』('05)が、オリジナル映画版('68)から舞台ミュージカル化('01)を経て映画化されているわけだし、『ヘアスプレー』('07)もオリジナル映画('88)から舞台化('02)を経ての映画化だ。もっと古典的な映画でも、『サウンド・オブ・ミュージック』('65)は同名舞台('59)の前にドイツで『菩提樹』('56)として映画化されている実話ドラマの翻案だったし、『王様と私』も映画('56)の前に舞台('51)があり、その原作は映画『アンナとシャム王』('46)だったとされている。『絹の靴下』('57)の原作は同名舞台('55)だが、原作はルビッチの映画『ニノチカ』('39)だ。『NINE』もこうしたハリウッド大作ミュージカルの伝統的路線に従って、豪華キャストで映画化されているのだ。
原作映画や舞台を観ていないのだが、映画はアイルランド人とユダヤ人の血を引くダニエル・デイ=ルイスが、どう好意的に見てもイタリア人映画監督には見えないのが最大の欠点だろう。オリジナルの映画『8 1/2』ではマルチェロ・マストロヤンニが、舞台版「NINE」初演でラウル・ジュリアが、再演でアントニオ・バンデラスが演じた役だ。なぜこの役がデイ=ルイスに当てられたのかは疑問だが、もともと同役にはハビエル・バルデムが配役されていたが、彼が降板したためデイ=ルイスにお鉢が回ってきたらしい。主演キャストが降板しても、他の俳優たちのスケジュールの都合もあるからクランクインを遅らせるわけにはいかない。いろいろと大人の事情もあるわけね。
シネマスコープの横長画面をたっぷり使ったダンスシーンは、生の舞台を観るかのような迫力がある。登場する女優たちが勢揃いして主人公を誘惑するオープニングのナンバーや、タンバリンを持ったファーギーが砂を敷き詰めた舞台で歌う「ビー・イタリアン」、ケイト・ハドソンがファッションショー風のセットで歌い踊るイタリア映画賛歌「シネマ・イタリアーノ」などは一見の価値がある。
(原題:Nine)