2009年にCDデビューすると、ワールド・ミュージックの世界に旋風を巻き起こしたコンゴのバンド、スタッフ・ベンダ・ビリリ。これは彼らが世界デビューするまでの様子を、デビューのお膳立てをしたプロデューサーたちが記録したドキュメンタリー映画。この映画を観ると、まさに「事実は小説よりも奇なり」という言葉を持ち出さずにいられない。この話を仮に劇映画のシナリオとしてプロデューサーに提出したら、「こんなことあるはずない」「まるでリアルじゃない」と一笑に付されて終わってしまうだろう。僕はこの映画を観ながら、「これって本当にドキュメンタリーなんだろうか? ひょっとして実話を元にしたフィクションなんじゃないの?」と何度も何度も疑ってしまった。そのぐらいに、この映画に描かれている内容はドラマチックだ。
ことの発端は2004年に始まる。取材のためにコンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)の首都キンシャサを訪れていたフランス人の映像作家ルノー・バレとフローラン・ドラテュライは、ある日地元の高級レストラン前で演奏しているストリート・ミュージシャンと出会う。彼らは子供の頃に感染したポリオ(小児麻痺)の後遺症で下半身不随という障害を持っており、街のあちこちで演奏しては小銭を集めるような暮らしをしていた。だがその楽曲と演奏テクニックは抜群。それがスタッフ・ベンダ・ビリリだった。ルノーとフローランは彼らをCDデビューさせるべく資金を集め、スタジオを借りて録音を始める。ところがその直後、ビリリのメンバーたちが暮らす身障者施設が火事で全焼し、メンバーたちの多くが路上に投げ出されてホームレスになってしまう。録音のための資金も枯渇し作業は中断。ビリリも一時活動中止でメンバーもバラバラになり、フランス人たちも一度帰国することになる。CDデビューのためのプロジェクトが再始動するのはそれから2年後。2007年から録音作業が再開されるが、この頃のビリリのメンバーたちは文字通りホームレス同然の暮らし。路上に段ボールを並べたり、廃品でこしらえたテントで寝泊まりするありさまだった。CDが発売され、記念のライブが行われても、それは基本的に変わらない。彼らは路上で暮らしながら、海外の音楽祭に出演するためパスポートとビザを取得し、ある朝路上の暮らしからそのまま空港に向かって世界に飛び立っていく。
ホームレスから世界的なミュージシャンへという飛躍がそもそも劇的なのだが、レコーディングが始まると住まいが火事になって無一文になるとか、スタジオではなく夜の動物園でレコーディングするとか、エピソードがいちいちドラマチック。観ていてドキュメンタリー映画としての強さを感じさせるのは、最初のレコーディング時にまだあどけない少年だったサトンゲ・プレーヤーのロジェが、3年後にたくましい青年になってグループに復帰するくだりかもしれない。
(原題:Benda Bilili!)
DVD:ベンダ・ビリリ!〜もう一つのキンシャサの奇跡
関連CD:屈強のコンゴ魂(スタッフ・ベンダ・ビリリ) 関連CD:Tres Tres Fort (Staff Benda Bilili) 関連CD:Staff Benda Bilili |