娘を交通事故で死なせて以来、刑事キム・ソンヨルと妻ジヨンの関係はギクシャクしている。家庭内での会話は途切れがちとなり、互いに相手が何をしているのかもよくわからない。そんな中、ソンヨルは殺人事件の現場で思いがけない遺留品を見つける。ワイングラスに付いた口紅、ちぎれたボタン、片方だけのイヤリング。それらはすべて、その殺人現場に自分の妻がいたことを意味していた。ソンヨルはとっさに現場に残った証拠をすべて隠滅。だが殺された男の兄は、犯罪組織のボスでジャッカルという異名を持つ男。ジャッカルは弟の仇に自らの手で復讐するため、警察は犯人を逮捕する必要などないと豪語する。やがて目撃者の証言や、現場に残された防犯ビデオの映像、ソンヨルの不可解な行動などから、事件の重要参考人がジヨンであることが、誰の目にも明らかになってくる。ソンヨルは警察とジャッカルから妻を守るため、彼女を海外に逃がそうとするのだが……。
「人生はクローズアップで見れば悲劇。ロングショットで見れば喜劇だ」と言ったのはチャップリン。どんなにシリアスな物語も、対象との距離を取り間違えると喜劇になってしまう。本作『シークレット』はシリアスなサスペンス・スリラーのつもりで製作されているようだが、内容はどちらかと言えば喜劇に寄っているように思う。夫婦仲の悪い刑事が殺人現場に残された妻の遺留品を隠そうと大汗かきながらジタバタするのも喜劇なら、妻がことの真相を夫に語らず、夫もまた妻に真相を聞くことができないというのも喜劇だ。悪名高いヤクザのボスは、低い声ですごんで見せたり、目玉をギョロつかせて相手をにらんだり、その振る舞いがすべてたちの悪いパロディのように見えてしまう。僕は途中まで、この映画をコメディだと思っていた。
『シークレット』がシリアスともコメディともつかない映画になってしまった理由は、観客が主人公との距離感をうまくつかめないまま映画が進行して言ってしまうからだ。主人公が何に悩み、何に迷い、何に苦しみ、何に怒りを感じているのか、映画を観ていてもわかりにくい。一番ひっかかるのは、主人公が妻と事件の関係をどう考えているのかがまったくわからないことだ。彼は妻が無実だと考えているのか? もしそうだとしたら、彼が妻の無実を信じる根拠はどこにあるのか? あるいは彼は、やはり妻が殺人事件の犯人だと思っているのか? だとしたら、彼があくまでも妻をかばおうとする理由はどこにあるのか? 主人公の行動原理が曖昧なままで、観客の共感を得ることは難しいだろう。
この話をシリアスなサスペンス・スリラーにするにせよ、あるいは辛辣なブラック・コメディにするにせよ、必要なのは観客が主人公にすんなり感情移入できることだったはず。主人公の妻の性格付けを少し変えるだけでも、映画はまったく違った印象になったはずなのだが……。
(原題:Secret)
DVD:シークレット
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