少女は自転車にのって

2013/11/27 シネマート六本木(スクリーン3)
サウジアラビアの10歳の少女が自転車ほしさに孤軍奮闘。
たくさんの人に観てほしい素晴らしい映画。by K. Hattori

13112703  イスラム教ワッハーブ派の教えを国教としているサウジアラビアでは、イスラーム法の厳格な運用によって女性の社会進出が著しく遅れているとされる。女性が自動車を運転することを禁じられ、女子児童生徒が公教育で体育の授業を禁じられている、世界で唯一の国がサウジアラビアなのだ。昨年のロンドンオリンピックでは、サウジアラビアから史上初めて2名の女子選手が出場したことが話題になった。イスラム教は女性に対して抑圧的だと批判されることが多いが、その中には異なる文化や習慣に対する誤解や偏見にもとづくものも多い。だがサウジアラビアの場合はそうした誤解や偏見抜きに、現実問題として女性がかなり抑圧されているようだ。それはサウジアラビアで初の女性映画監督が撮ったこの映画を観てもよくわかる。

 ヒロインのワジダはリヤドに住む10歳の女の子だ。近所に住む幼馴染みの少年アブドゥラとはケンカでも駆けっこでも負けないが、自転車で逃げられるともう追いつけない。「わたしも自転車があれば負けないんだから!」。ワジダは早速お母さんに自転車をおねだりするのだが、「女の子が自転車なんてとんでもない」と言われてしまう。目星を付けた自転車は800リヤル。1リヤル約25円として800リヤルは2万円ぐらい。子供には大金だ。ワジダはミサンガを編んで学校で売るなど、子供らしい内職に精を出すが、これでは自転車にはほど遠い。だがそんな彼女にビッグニュースが飛び込んでくる。学内のコーラン暗誦コンクールに出場して優勝すると、今年は1,000リヤルの賞金がもらえるというのだ。これに出ない手はない。ワジダは早速、コーランとイスラムの勉強に明け暮れるようになるのだが……。

 「サウジアラビア初の女性映画監督」というところが注目されそうな作品だが、何よりも素晴らしいのはこれが映画としてとてもよくできていることだ。前思春期の少女と彼女を取り巻く家族、特に母親との関係が丁寧に描かれているホームドラマであり、ひとりの少女が学校でクラスメイトや教師たちとの葛藤を通して成長していく学園ドラマでもある。そしてこうしたパーソナルなドラマの外側に、サウジアラビア社会が抱えるさまざまな問題がしっかりと組み込まれているところも見逃せない。女性に対するさまざまな抑圧を、当の女性自身が行っているという現実もある一方で、女性の社会進出も少しずつ、しかし確実にはじまっている。主人公の一家を一番苦しませるのは、サウジアラビアに残る一夫多妻の習慣だ。ワジダの両親は高校時代に知り合って結婚したカップルだが、父の一族が男の子を望んでいることから2人目の妻を迎える話が進んでいる。

 東京では岩波ホールで上映される映画。岩波ホールといえば高齢映画ファン御用達みたいな映画館だが、これはむしろ日本の10代の少年少女に観てほしい!

(原題:Wadjda)

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12月14日(土)公開予定 岩波ホール
配給:アルバトロス・フィルム
2012年|1時間37分|サウジアラビア、ドイツ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
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