スノーピアサー

2013/12/26 シネマート六本木(スクリーン3)
雪原を失踪する現代版ノアの箱船で反乱が起きる。
ポン・ジュノ監督のSFアクション大作。by K. Hattori

13122603  西暦2014年。行き過ぎた地球温暖化に歯止めをかけるため、大規模な地球冷却作戦が始まった。だがこれは引き金となって、地球は新たな氷河期に突入。地上の生物は死滅し、生き残ったのは高級列車スノーピアサーに乗り込んだ乗客たちだけとなった。21世紀のノアの箱船となったスノーピアサーは、1年で地球を一周するペースで走行を続ける。その内部には3種類の人間たちがいた。列車を運行するウィルフォード産業の人間、高額の運賃を支払って列車に乗り込んだ正規の乗客、そして氷河期突入直前に列車に受け入れられた無賃乗車の人々だ。だが無賃乗車組は列車最後尾の車両に押し込められて、家畜か奴隷のように虐待を受ける暮らしに甘んじている。氷河期突入から17年後の西暦2031年。最後尾の車両で反乱ののろしが上がる。カーティスをリーダーとする反乱グループは、おびただしい犠牲者を出しながらも、先頭車両目指して列車内を駆け抜けて行く。

 ポン・ジュノ監督の新作は、韓国・アメリカ・フランス合作のSFアクション大作。全体としては英語作品で、反乱グループのリーダーを演じるクリス・エヴァンス、長老役のジョン・ハート、ウィルフォードを演じたエド・ハリス、その部下を演じたティルダ・スウィントンなど、ハリウッドで活躍する有名俳優たちがぞろぞろ出てくる中に、韓国映画界の大スター、ソン・ガンホが平気な顔をして出てくる。しかも普通に韓国語で押し通してしまうのだから恐れ入るではないか。彼はポン監督と『殺人の追憶』や『グエルム 漢江の怪物』でもコンビを組んでいる。黒澤明と三船敏郎、スコセッシとデ・ニーロのような、監督と俳優の結びつきがここにはある。監督もソン・ガンホがいればこそ、他の大物俳優たちを前にしても臆することなく演出の采配を振るえたのかもしれない。

 これは現代の寓話だ。氷河を打ち砕きながら進み続けるスノーピアサーは、現在の世界の縮図になっている。前部車両の乗客は、豊かな暮らしを手にしている先進国の人々。後部車両の貧民たちは、発展途上国の貧しい人々だ。貧しい人々は自分たちが豊かになることを夢見て、必死に今を生きている。だが現在の世界人口は70億。遠からず100億になりそうなこの人間たちを、丸ごと全部豊かにするだけの余裕はもはや地球に存在しないだろう。貧しい人々がどれだけ苦労をしても、彼らは決して豊かになることはできない。貧しい人たちが貧しさの中に留まってくれることで、先進国の豊かな暮らしは維持されている。先進国は発展途上国から搾取する必要はない。発展途上国が今のまま貧しくさえいてくれればそれでいい。これはスノーピアサーとまったく同じ理論なのだ。

 この映画は現在我々が住んでいる世界を、貧しい人たちの視点から描いている。だが我々は走り続けるスノーピアサーの中で、何の疑いもなく豊かで安全な暮らしを享受している乗客たちなのだ。

(原題:Snowpiercer)

Tweet
2014年2月7日(金)公開予定 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給・宣伝:ビターズ・エンド 配給・劇場営業:KADOKAWA
紙・電波パブリシティ:樂舎 WEBパブリシティ:ティー・ベーシック
2013年|2時間5分|韓国、アメリカ、フランス|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.snowpiercer.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:SNOWPIERCER
ホームページ
ホームページへ